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その時、

月を見ていた

それは完全な満月で九月のこの時期では太古の昔から一番有名な月だ

そしてその月は海に浮かんでいた

周りには誰も、車も、家も、何もない

抽象的なまでに月と海と海岸

風はもう秋の入り口だというのに密かに月の光の温度に暖められたように生暖かく

顔を撫でる

振り返ると背面には形のいい山が暗闇にそびえている

山頂は笠雲の中だ

その笠雲や山肌や私が立っている海岸や海面に

まるで昼間の太陽光線の眩しさだけを抜いたような幻想的な光が音もなくふりそそぎ・・・

そう、まさに『ふりそそぐ』状態だ

落ち着いてじっとしてあらためて月を見る

年に何回か月をじっと何時間も見つめることがあるが

(だいたい『負』のパワーを感じる時だが・・・)

この月は今までのどれとも違って何か目に見えない粒子を高速で放射しているようで

しかし、それはけっして不快ではなく

なんだか自分が透明になってしまって

月の明るさで細部までくっきり見える、そう、まるでアメリカ映画の夜景のような状況に

“動いてはいけないもの”として貼付けられた

何時間そうしてたのか

当然、月は軌道上を目に見える速度で移動し

眼下に形而上学的なシルエットで佇む小島を背面から照らし続ける

その島に住む山羊の群れは寝ているだろうか

それとも神秘的な光の側に夜中なのに集団で移動して草を食んでいるのだろうか

軽くそんな『力』はありそうだ

私もそうとう酔ってはいたが

その光景に身をおくや脳が沈静化して

思い悩んでいたことや

考えるべき種々雑多な些末な出来事を忘れて呼吸を止めてしまった

そして

明らかに自分が“それ以前の”自分から変化したことを理解した

数時間後にはこの上を飛んで東京に戻らなければならない

しかしどうでもよかった

このままずっとこうしてこの夜に・・・















戻ってきた

5倍くらいの速度の時間の中に

すっかり季節がかわっている








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2005年09月19日 19:32に投稿されたエントリーのページです。

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